私が過去に経験した患者さんの中で、なかなか治療が難しかったのと同時に、鍼灸治療の効果の大きさを感じ、勉強になりました。
今回の記事では、タイトルとおり、脳脊髄液減少症&外リンパ瘻(左)の患者の治療の仕方について、1症例ですが書いていきます。
脳脊髄液減少症(のうせきずいえきげんしょうしょう)とは
脳脊髄液が脳脊髄液腔から 漏出することで減少し、頭痛やめまい、耳鳴り、倦怠など様々な症状を呈する疾患ですが、患者さんは交通事故のより発症しました。
ブラッドパッチ療法(硬膜外自家血注入療法)が効果的な方もいますが、私が担当したのは効かない方に入ってしまった患者さんで、そうなると西洋医学的に打つ手無しとなります。
脳脊髄液とは
脳室系とクモ膜下腔を満たす弱アルカリ性の無色透明な液体で、脳の水分含有量を緩衝したり、形を保つ役に立っている。
脳室内の脈絡叢で一日に約500ml産生され、脳脊髄の表面を還流後、頭蓋円蓋部のくも膜顆粒より吸収され、バランスを保っています。
髄液腔を包む硬膜、くも膜に何らかの理由で穴があき、髄液が漏れると、内部の水と供に脳が動き、痛覚受容体のある脳神経、脳の血管や頭蓋底の硬膜が刺激され、痛みを感じるようです。
脳脊髄液はクモ膜下腔の中で大孔(大後頭孔)を抜けて脊柱管に入り、脊髄を取り巻く静脈叢から静脈に入るか、脊髄神経の神経鞘の中を流れて最後にはリンパ液と混ざります。
外リンパ瘻(がいりんぱろう)とは
内・外リンパは内耳の中を満たす液体で、それぞれ内リンパ腔、外リンパ 腔に存在します。外リンパが内耳から中耳へ漏出することによって、内耳の生理機 能が傷害される疾患を外リンパ瘻と呼んでいます。
外リンパ瘻の原因は
- 内耳・中耳に脆弱な部分があり、そこに何らかな の外力が働いて発症
- 骨折などの外傷
- 奇形に伴うもの
に大別されます。
誘因として最も有名なのは、中耳圧もしくは脳脊髄圧の上昇によるもので、水中ダイビング、飛行機、スポーツ、くしゃみ、鼻かみ、咳、力み、重い物を持ち上げた、などでも発症します。
今回の治療をした患者さんは、交通事故による外傷性の外リンパ瘻です。
外リンパ瘻は、難聴、耳鳴り、めまい、平衡障害などさまざまな症状を呈します。
合併症は、自閉感、頭重患、平衡機能障害による歩行障害など。
難聴や、めまい・平衡障害が後遺症として残ってしまうことも多いようです。
患者さんの主訴、体調
- めまい(回転性と浮動性が常に)、頭痛、目の奥の痛み、全身倦怠感といった自律神経症状。
- 交感神経か緊張になっており、つねに発汗。
- 台風が来るとめまいが悪化し、だるく、起きられなくなる。
治療法
キャリア40年くらいの先生があれこれ治療法を試し「この方法で主訴が2~3日ほど、一時的に改善する」と見つけたモノです。
鍼灸の効果が切れるとまた自律神経清浄など復活しますが、一時的にでも快適な体の状態を取り戻せるのは、患者さんの生活の質に関わります。
ただし、根本的な脳脊髄液の減少と外リンパ婁が改善したわけではないのですが、2~3日もすれば治療効果がうせて元に戻りますが、一時的にせよ体調が好転することで生活の質が向上します。
鍼のみ、あるいは灸のみの施術では治療効果は出ないので、鍼灸の併用で治療します。
先に手足を先に打つなど、遠位(下)から近位(上)に刺鍼
上から刺すと、頭部に血流が先に行くと、もしかしたら頭部症状に強い影響を及ぼすかもしれないので、安全な方法として採用しましょう。
刺激量は単刺でも十分に効果が出ます。
背中の治療
東洋医学的な見立て治療で脳脊髄液の生産力を高めることを目的として、五臓の背部兪穴(肺兪、心兪、肝兪、脾兪、腎兪)に刺鍼していきます。
座位で刺鍼
術後、起き上がり椅子に座ってもらいます。
閉眼すると「左後方」に体が引っ張られ、体が倒れて行きます(なので、患者さんが手を施術台について倒れないようにバランスをとります)。
横方向の平衡感覚を整えるため、鍼を左の四瀆穴or上四瀆穴or外関穴のいずれかで圧痛を確認し、反応あるツボへ刺鍼し、回旋して真ん中にバランスとれるところを探します。
横方向でバランスが取れたら、続いて前後のバランスを左大衝穴でとります。
足臨泣穴を使う場合もあるが、基本的に大衝穴で操作可能です。
太衝穴を使うか、足臨泣穴を使うかは、ツボを押圧して圧痛を確かめながら決定します。
太衝穴で鍼を回旋すると、前後方向のバランスを整えることができるが、左右方向のバランスに影響することもある。
治療法を教えてくれた先生いわく「この鍼を使ってバランスを前後左右でとれるのはの外リンパ瘻(あるいは脳脊髄液減少症)の患者のみに適応するやり方で、 ただの目眩の患者では反応が出ないかもしれない」とのことでした。
座位で灸
前後左右のバランスを、閉眼時でもど真ん中に調整できたら、手足に鍼を刺したまま、そこから督脈通陽法(とくみゃくつうようほう)によるアプローチに移ります。
上仙穴→大椎穴まで知灸灸
深部へ浸透した熱が督脈(背骨を上行する経絡)をのぼるので、昇った熱が止まったところを追う様に施灸し、目に抜ける(※患者曰く「目がパカーンとする」)まで、各所何十壮以上でも灸をすえる。
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知熱灸の参考に。艾の大きさは半米粒大で。これを督脈上にしていきます。
熱が上がりづらければ、2点3壮したり、途中で筋縮穴、至陽穴に適宜お灸をして上部に熱を散らしつつ、下部の穴の施灸を続行する。
熱が督脈を登るのが大椎穴で止まり、目まで抜けない場合、鳳眼穴に5壮すると目に抜ける。
※初めに、鳳眼に9壮してみたこともあるが、これだけだと目の奥の症状は緩和しなかった。
灸をしはじめたとき、あるいは施術の間隔があいたとき、患者の体調不良のとき(低気圧時)は熱がなかなか通ららない。
強刺激にしないと治療効果が出づらいため、施灸により、灸痕が残ることはインフォームドコンセントすべし。
棒灸で温める場合は座位で行う
中国製は途中で艾が崩れ落ちやすく火傷のリスクがあるため、患者の体に接触しづらい体勢でおこなう。
《注意点》
- 皮膚温が上昇するまで。
- 棒灸を当てるのは三秒まで。
- 老人は低温やけどをしやすいので注意。
温まる効果がでないから、と、督脈上に刺鍼したまま(置鍼)灸をしたら、目眩が増強したことがあり、その際は足臨泣穴へ鍼をして目眩を止めた。
お灸の熱を体の奥に浸透させるため置鍼と施灸を組み合わせることがありますが、のぼせ対策の「返し鍼」が聞いたことから、頭部の血流が良くなりすぎて、のぼせてめまいが出たのかもしれまん。
このことから、頭部への影響を考慮する必要があります。
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身柱穴で頭部の火氣をおろすことも可能で、肺の粛降作用に近いものがある?
刺鍼⇒目に熱が通るまで施灸トータルで90~120分かかる場合もありました。
全体的な刺鍼スピードは熟練者であればとくになんなくこなせますが、閉眼時のバランスをとる鍼の操作はきわめて繊細で、督脈通陽法で目まで熱を通す、というのが慣れないとかなり難しいです。
個人的見解
脳脊髄液減少症の患者さんは、おそらく大椎周辺のコリが著しいはずです。
脳脊髄敵が漏出するといっても、完全になくなることはありません。
推測ですが、大椎付近のコリがあることで、脳脊髄液の脊椎への循環を低下させ、漏出のバランスをとっているのではないか?と思います。
なので、督脈上のコリを単純に採るだけでなく、「脳脊髄液の産生力を高める体にする」という見立て治療を加えるのが大事だと思います、
この体液の産生力を高めるには、「脾」の力がとも大切になるはずなので、胃の不調を解消する(大椎にコリがあれば交感神経優位になるので、自然と胃の働きが低下してしまいます)ことと、良質な食事を取ることが大事になることでしょう。
はい!
というわけで、参考までに、こんな治療法で一時的にでも体調が好転しますので、鍼灸師の先生方!
是非、参考にしてみてください!!
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